オロチという名の闇……
そしてそこに、その小さな花が、ぽつりと咲いていたのだ。病みついた、震える美しい白い花……。
彼の脳裏に、ある光景がいなずまのように浮かび上がった。舞い散る、無数の花びらのなか、ひとりたたずむ人の姿……。
見つけた。
その瞬間、彼は何故かそう思った。
知らず知らずのうちに、その頬に微笑が浮かんでいた。
彼はオロチ。
やがてオロチは、静かに浮かび上がるだろう。誰も知らない、地下深い湖の暗い湖面にゆるやかにひろがる波紋のように、オロチは世界に死をひろげようとしていた。